
相続放棄後に遺産を処分すると、相続放棄が認められず借金の返済を迫られるの?
このような疑問・悩みにお答えします。
- 相続放棄後は自分の財産ではない
- 相続放棄をするときにすべき3つの注意
- 相続放棄をする前に遺産を処分したりしない
親が亡くなったのだけど、親は借金こそしていても財産になるようなものは何もなかった・・・という場合には、相続なんて関係はないと思っている方もたくさんいらっしゃいます。
しかし、相続は被相続人がどのような資産をもっていたかに関わらず発生しますし、借金も相続の対象となります。
自分がした借金ではないにもかかわらず、相続をしたばっかりに支払いをしなければならないというのでは、たまったものではない!と思う方も多いでしょう。
そこで、法律で認められている相続放棄をするという方も多いのですが、せっかくした相続放棄が認められなくなる事があるのはご存知でしょうか。
このページでは、相続放棄をしたのに、相続放棄後に遺産を処分してしまったために、相続放棄が認められず借金の返済を迫られた事例についてお伝えします。
Aさんの相続の事例
相続放棄後に遺産を処分してしまったために、相続放棄が認められなくなったAさんの相続の事例を見てみましょう。
Aさんの相続
Aさんには妻Bさん子Cさんが居て、子Cさんはすでに独立して生計をたてており、Aさんは妻Bさんと一緒に賃貸住宅で暮らしていました。
Aさんは自営業をしており、亡くなる直前まで商売をしていました。
Aさんが亡くなって、BさんCさんが相続人となりましたが、Aさんは商売で作っていた借金がかなりあるという状況でしたので、BさんCさんは相続の放棄を行いました。
相続放棄の申述をインターネットの情報を頼りに行い、申述から3週間後に家庭裁判所から相続放棄についてのアンケートをもらって回答、その1ヶ月後に相続放棄が認められたという書面が到着しました。
この書面をコピーしたものを、商売をしている関係の債権者にだけ送付をして、債権者からの追及もなくなったので、BさんCさんは安心して暮らしていました。
自動車ローンの会社からの請求に対して相続放棄申述受理証明書を送付
その後、この自動車ローンの会社からも請求が届いたので、他の会社と同じように相続放棄をした旨の書面のコピーを送りました。
他の会社はこれで請求をやめたのですが、自動車ローンの会社は「それでは自動車の引き上げを行うので現在の所在を教えてください。」という連絡をもらいました。
自動車については妻BさんCさんも、Aさんがどうやって購入していたか知らなかったのですが、この会社に対してBさんは正直に「インターネットの掲示板で売買サイトで出品して売却してしまいました。」と伝えました。
そうしたところ自動車ローン会社から、そのような行動をした人は相続放棄を主張できないので、自動車のローンの残金をすべて払ってください、という行動を取り、ついにはBさんCさんに対して内容証明を送ってきました。
これに驚いたBさんCさんは対応をしようとして、弁護士に相談しました。
弁護士の回答「払わなければならない」
弁護士との相談の期日に相続放棄申述受理証明書と自動車ローンの会社からの内容証明を持参して弁護士に相談をしました。
弁護士に相続に関する経緯や、相続放棄に関する経緯、現在の状況を伝えたところ、弁護士からの回答は驚くべきものでした。
なんと、弁護士は「相続放棄後に財産を処分したということになって、民法でやってはいけないと書かれているものになりますので、この場合全額支払わなければならないでしょうね」と答えたのでした。
そのため、BさんとCさんは、自動車ローンの残金全額を支払いしました。
Aさんの相続放棄について解説
それではAさんの相続放棄について解説します。
相続放棄後には相続放棄申述受理証明書がもらえるのでこのコピーを債権者に送る
まず、本題から少しそれるのですが、BさんCさんは、Aさんが借金があったことから相続放棄をしています。
この相続放棄をする手続きのことを、相続放棄の申述(しんじゅつ)と呼んでいます。相続放棄の申述があると、手続先の家庭裁判所から照会書というものが送られてきます。
この照会書には相続放棄に問題がないかを確認する事項があり、どのような財産があるかも伝えることになります。この件ではBさんCさんが「資産」として軽自動車を考えていなかったと考えられ、申告もしていなったと見るべきでしょう。
相続放棄をした以上は被相続人の財産について処分する権限は基本的にはありません。にもかかわらず、今回BさんCさんは利用しないからといって軽自動車を処分してしまっています。
その結果、民法第921条3号に規定されている、相続放棄ではなく単純承認したと扱われる事情に該当することになってしまい、自動車ローンの会社からの請求に応じなければならなくなったのでした。
相続放棄ができなくなり、効果が否定される場合があることを知る
この事例から教訓とすべきものとして、相続放棄をしようとしても、相続放棄自体が認められなり、いったんした相続放棄が否定されることになることがあるという事です。
ある人の相続をする場合に、その相続についてどういう相続の仕方をするか3つの方法があります。
普通に相続をすることを単純承認といい、それ以外の方法として限定承認・相続放棄という方法があります。限定承認というのは、プラスの財産の範囲でマイナスの借金なども引き継ぐというもので、もし借金の方が多い場合でも、資産をすべて売って返済すればあまりは引き継がないとするものです。
相続放棄は、最初から相続人ではなかったと取り扱ってもらう手続きのことをいいます。
この相続放棄をする場合には、相続を承認してはならないのですが、先ほど少し見た民法第921条によって、単純承認をしたものとみなされてしまうものがあります。
一つは相続財産をすでに処分した場合、もう一つは民法第915条に規定されている相続放棄の期間(3ヶ月以内)を超えた場合が規定されています。
なお、相続放棄の期間を過ぎた場合でも、期間内に相続放棄ができなかったやむを得ない事情がある場合には相続放棄できる場合がありますので、期間を過ぎても諦めずに専門家に相談するなどするのが良いでしょう。
相続放棄後には相続財産を他の相続人や相続財産管理人が管理をはじめるまで管理をする必要があるのですが、本件BさんCさんはこれをせずに処分をしてしまった結果、民法第921条に抵触してせっかく相続放棄をしたにもかかわらず、それが認められなくなったことになります。
BさんCさんはどうすればよかったのか
ではBさんCさんはどうすればよかったのでしょうか。まず、BさんCさんは相続放棄を単独で行っています。
このこと自体は何ら法律に反するものではないのですが、この相続放棄の時に、軽自動車を資産として相続手続きでの取り扱いが必要なものと認識できていませんでした。
最初の相続放棄の、相続放棄の申述・照会書作成などの段階で弁護士などの専門家に相続をすることができていれば、軽自動車が資産であること、相続放棄後には管理する義務があることを確認できた可能性があります。
また、常識的に相続放棄をしておきながら、今回のように被相続人の財産を処分してしまう行為も慎むべきだったのでしょう。
相続放棄の相談は誰に行えばよいのか
では相続放棄の手続きは誰に相談すべきなのでしょうか。
相続放棄は裁判所に申述して行うことになりますので、弁護士法所定の法律事務ということができ、弁護士が行うことになります。
ただ、司法書士は司法書士法で裁判所提出書面の代理を行う権限がありますので、司法書士も案件を取り扱うことができます。
相続を取り扱う専門家・会社などであれば、こういったネットワークを持っていることが通常です。
遺品整理の会社もこういった専門家とネットワークを持っていますので、手続で悩んでいることがあるのであれば、相談を持ち掛けてみましょう。
まとめ
このページでは相続放棄をした後に遺産を処分したために、相続放棄を相手に主張できなくなった事例についてお伝えしてきました。
相続放棄をする場合には禁止事項もありますので、きちんと専門家に相談をして行うのがよいでしょう。